名古屋地方裁判所 昭和42年(行ウ)10号 判決 1972年7月14日
原告
有限会社一楽
右代表者
住田ゆき
右訴訟代理人
原田武彦
被告
名古屋中税務署長
下郷礼雄
右指定代理人
斎藤延一
外三名
主文
被告が原告の昭和三七年四月一日より同三八年三月三一日まで、同三八年四月一日より同三九年三月三一日までの各事業年度の法人税についていずれも同四〇年五月二八日附でした前年度につき所得金額を一一四万一、〇三四円とする更正処分および過少申告加算税一万八、八〇〇円の賦課決定、後年度につき所得金額を一〇二万六、二二七円とする更正処分および過少申告加算税一万六、九〇〇円の賦課決定(但し、いずれも裁決により一部取消された後のもの)は、いずれもこれを取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一、申立
一、原告
主文と同旨
二、被告
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第二、主張
(原告の請求原因)
一、原告の昭和三七年四月一日より同三八年三月三一日までの事業年度(以下「第一年度」という)の法人税について
1原告は被告に対し昭和三八年五月三一日欠損金額一三万一、〇二八円とする確定申告をしたところ、被告は右申告に対し所得金額を一六三万八、二三二円とする更正処分および重加算税一六万二、〇〇〇円の賦課決定をして同三九年六月三〇日その旨原告に通知した。
2、原告は被告に対し昭和三九年七月三〇日右処分について異議申立をしたが、被告はこれを棄却し同年九月三〇日その旨原告に通知したので、原告は名古屋国税局長に対し同年一〇月二七日審査請求をした。
3、被告は、前記1の処分に誤りがあるとして、右重加算税の賦課決定を取消し、所得金額を一九三万二、七一三円とする再更正処分および過少申告加算税三万一、八五〇円の賦課決定をして、昭和四〇年五月二八日その旨原告に通知した。
4原告は被告に対し昭和四〇年六月二三日前記3の処分について異議申立をしたところ、前記2の審査請求に対する審理中であつたので、いわゆるみなす審査請求とされ(当時の国税通則法第八一条)、名古屋国税局長は右各審査請求につき併合審理をして所得金額を一一四万一、〇三四円、過少申告加算税を一万八、八〇〇円とする裁決をし、昭和四一年一二月一四日その旨原告に通知した。
二、原告の昭和三八年四月一日より同三九年三月三一日までの事業年度(以下「第二年度」という)の法人税について
1、原告は被告に対し昭和三九年六月一日欠損金額八〇万八、一九三円とする確定申告をしたところ、被告は右申告に対し所得金額を一五三万八、七五三円とする更正処分および過少申告加算税二万五、三五〇円の賦課決定をして同四〇年五月二八日その旨原告に通知した。
2、原告は被告に対し昭和四〇年六月二三日右処分について異議申立をしたところ、被告は右申立を審査請求として取り扱うことを相当と認め、原告もこれに同意したので、右異議申立はいわゆるみなす審査請求とされ(当時の国税通則法第八〇条第一項第二号)、名古屋国税局長は右審査請求に対し所得金額を一〇二万六、二二七円、過少申告加算税を一万六、九〇〇円とする裁決をし、昭和四一年一二月一四日その旨原告に通知した。
三、処分の違法性の指摘
原告には第一、第二事業年度とも前記確定申告額を越える所得は存しない。よつて、前記一、3および二、1の各処分(但し前記一、4および二、2で一部取消された後のもの。以下「本件課税処分」という)はこの点において違法である。
よつて本件課税処分の取消を求める。
(請求原因に対する被告の答弁)
請求原因事実一、二は全部認める。
(原告指摘の三処分の違法性に対する被告の主張)
一、本件課税処分の根拠
1、原告は昭和二二年法律第二八号(以下「旧法人税法」という)第二五条に規定されているいわゆる青色申告法人でなく、かつ、被告において調査したところ、原告の会計帳簿等の記帳、原始記録(営業関係書類等)の保存についても次のとおり不良、不完全であつた。すなわち、
(一) 昭和三九年五月八日に係争各年度の調査をした際、売上原始記録の保存がなされていないため、金銭出納帳の検討ができたのは僅か五日間のみで、この間にも二万円の売上除外が認められた。
(二) さらに、その後の再調査をした際も、前同様売上原始記録は僅か六日分しか保存がなく、現金出納帳も毎日記入されておらず、一〇万六、四一七円の現金不足が生じていた。
(三) さらにまた、別表一のとおり現金出納帳と原始記録の記帳および原告の現金出納帳とその取引先の帳簿とに多くの不符合があることが判明した。
2、以上の事実からみても、係争各年度において、現金出納帳等に記載の売上収入以外にも相当の売上除外の存することが推認され、現金出納帳自体に信憑性がなく、同現金出納帳を根拠として算出された原告の確定申告を信頼することができず、また、他に所得計算を明らかにし得る直接的な資料はほとんどなく、さらに、これに代る資料の獲得につき原告の十分な協力も得られなかつたので、やむを得ず旧法人税法第三一条第二項の規定により所得金額を推計して課税した。
二、所得の推計計算の方法
1、第一の方法
原告の営業規模等と類似するパチンコ遊技場経営の法人七社を選定し、別表二のとおりその係争各年度におけるパチンコ機械一台当りの平均売上額および平均営業利益率を求め、さらにそれにより、別表三のとおり原告の係争各年度の売上金額および営業利益金額を算出し、右営業利益金額に営業外損益を加減算すれば、原告の所得金額は、
第一年度 一一四万一、〇三四円
第二年度 一〇二万六、二二七円
となる。
2、第二の方法
原告備付の帳簿書類等に記載された係争各年度の当期仕入額に調査の結果判明した愛産商会からの仕入の記帳もれ額を加算した仕入金額を各基礎として、別表四のとおり算定すれば、原告の所得金額は、
第一年度 一二〇万六、二六〇円
第二年度 一一〇万三、三九九円
と算出される。
(一) 売上金額の算定
売上金額は原告の売上原価および営業経費の合計額(以下「総費用額」という)を同業法人の売上金額に対し総費用の占める割合(以下「総費用率」という。この総費用率は一〇〇パーセントから営業利益率を引いたものである)で除して算出されるところ、
(1) 原告の総費用額は
第一年度 三、七八四万四、一七〇円
第二年度 三、九一九万三、〇八三円
であり(別表四)
(2) 前記選定法人七社の平均総費用率は
第一年度 93.6%
第二年度 93.5%
であるから(別表二)
(3) 原告の売上金額は右(1)を(2)で除して
第一年度 四、〇四三万一、八〇五円
第二年度 四、一九一万七、七三五円
と算出される(別表五)
(二) 営業利益額の算定
営業利益は売上金額から総費用額を控除して算出されるから、原告の営業利益は、右(一)(3)から(一)(1)を控除して
第一年度 二五八万七、六三五円
第二年度 二七二万四、六五二円
と算出される。(別表五)
(三) 所得金額の算定
所得金額は営業利益額に営業外利益(受取利息、雑収入)を加算し、これから営業外損失(支払家賃、租税公課、減価償却費等)を控除して算出されるところ
(1) 原告の営業外利益は
第一年度 四三万四、四八〇円
第二年度 三〇万三、一七一円
であり
(2) 原告の営業外損失は
第一年度 一八一万五、八五五円
第二年度 一九二万四、四二四円
であるから
(3) 原告の所得金額は右(二)に(三)(1)を加算し、これから(三)(2)を控除して
第一年度 一二〇万六、二六〇円
第二年度 一一〇万三、三九九円
と算出される。(別表五)
三、同業類似七法人の選定の合理性
1、被告は前記推計計算に際し左記の諸事情を考慮のうえ原告ともつとも近似したパチンコ遊技場経営の法人として別表二のAないしGを選定したものであり、従つて、同選定は推計の根拠として合理性がある。すなわち、
(一) 商店街通行人の量、電停バス停等の交通機関への距離、客層等名古屋市内の立地条件が原告と類似した法人。
(二) パチンコ機械台数および店舗設備等営業規模において原告と類似した法人。
(三) 原告会社取締役の夫が自ら原告と規模等において近似する旨申立てた法人。
(四) 同業者精通意見によつた法人。
以上の諸点を考慮し、かつ、原告店舗周辺に大規模と称する同業者の存すること等をも勘案のうえ比較法人を選んだものである。
2、被告は、念のため名古屋市内のパチンコ遊技場経営法人の全部である別表六のうち、第一次ないし第三次の選定をして、原告にもつとも近似する同規模と認められる法人の営業利益率を算出したところ、
第一年度 8.01パーセント
第二年度 7.95パーセント
であり、従つて、総費用率は、
第一年度 91.99パーセント
第二年度 92.05パーセント
であり、かえつて右選定七法人の営業利益率よりも上廻つており、以上の結果に比べても右七法人の選定には何らの不合理はない。
四、以上の如く、本件更正処分における所得金額は合理的に推計されたものであり、本件課税処分は適法である。
(被告の主張に対する原告の答弁)
一、被告の主張一に対して
原告の帳簿の記帳状況に多少不完全なところがあり、原始記録の保存が不完全であつたことは認めるが、原告の如き零細な法人では記帳を厳格に実行し、原始記録を完全に保存しておくための記帳係を確保することは経費の節約上困難であつた。また、別表一のとおり不符合があることは認めるが、同表(一)(二)(三)については、所得額の計算のうえで結果的には誤りとなつておらず、同表(四)については、取引先である愛産商会は同社から派遣されて同社の製品の所謂景品買を行ない改めて一定の手数料を加算して原告に再販売した額の計上を怠つているから、原告の記帳の方が正確であり、右愛産商会の記帳が誤つている。その余は争う。
二、同二、三は争う。
(原告の反論)
一、1、原告は一二三台のパチンコ機械を備えているパチンコ遊技場であるところ、原告の周辺には、(一)前方三〇メートルの位置に三八二台を備えている金山センター、(二)前方六〇メートルの位置に三〇六台を備えている寿屋会館、(三)前方一〇〇メートルの位置に三一五台を備えているゴールイン、と三つの大規模なパチンコ遊技場があり、しかも、店舗の装飾、設備、照明等は原告のそれと比較にならない近代的な遊技場である(いずれも係争各年度を基準とする)。
2、そのうえ、原告店舗に隣接する物件に対し従前より名古屋地方裁判所より現状不変更の仮処分を受けたため間接的に原告の店舗についても同様な仮処分を受け、かつ、建物収去の訴が提起されるおそれがあるため設備の改善、店舗改装が意の如くできず、バラック程度の貧弱な店舗である。
3、そのため、文化性と投機性と娯楽性を求めるパチンコ客は前記三大パチンコ店に集中し、原告遊技場は閑散として入客する程度である。
二、また、遊技場のパチンコ機械の台数はその数に比例して売上げが加算されるというような単純なものではなく、その売上げは台数の増加に従い異常な増加を示すものであり、逆にいえば台数が減少するに従い売上げは激減する。
三、よつて、かかる特殊事情を考慮せず、かつ、パチンコ機械の台数を基準に比例的に計算して所得金額を算出した被告の推計計算方式は不当である。
(原告の反論に対する被告の答弁)
一、原告の反論一、1に対して
原告のパチンコ機械台数が一二三台であることは認める。原告の周辺に(一)前方三〇メートルの位置に三八二台を備えている金山センターのあることは認める。但し昭和三七年一〇月までは二二三台である。(二)前方六〇メートルの位置に三〇六台を備えている寿屋会館があることは否認する。本件係争年度中は二〇六台である。(三)前方一〇〇メートルの位置に三一五台を備えているゴールインのあることは認める。右三店の店舗の装飾、設備、照明等は不知。
二、反論一、2に対して
否認する。同仮処分は本件遊技場に隣接する物件に対してなされたものであり、本件遊技場には関係がない。
三、反論一、3に対して
否認する。原告店舗の存する金山駅付近はパチンコ店が集まつているため客が級数的に集まり盛大さを増していることは周知の事実であり、しかも原告の事業所側の通りでは原告の店舗のみであることはかえつて立地条件としても極めて有利である。またパチンコ機械台数の多少による近隣同業者との比較は、極端な場合は別として余り影響のないことは別表六の市内各同業者が相当の営業利益を得ていることからも明らかである。
四、反論二、に対して
否認する。
第三、証拠関係<略>
理由
請求原因1および2の事実については当事者間に争いがない。
そこで以下被告のなした本件各処分の適法性について検討する。
第一、被告が各係争年度において、いわゆる推計課税の方法により原告の所得金額を推計して課税したことの適否について
被告の主張中、原告の会計帳簿等の記帳、原始記録(営業関係書類等)の保存が不良かつ不完全であつたこと、現金出納帳と原始記録の記帳および原告の現金出納帳と取引先の愛産商会の帳簿との間には別表一のとおりの不符合があることは当事者間に争いがない。
そうして、<証拠>によれば、現金出納帳は毎日記入されておらず、かつ記帳の際も、現金の出納と出納帳の記入につき各別に照合がなされなかつたため、現金出納帳の残高と現金の残余額とが一致しなかつたり、現金出納帳の残額を赤字とする記帳がなされたこともあり、結局現金出納帳を根拠として算出された原告の確定申告を信頼することが出来ず、また他に所得計算を明らかにしうる直接的資料はほとんどなく、更にこれに代る資料の獲得につき原告の十分な協力を得られなかつたことを認めることができ、他にこれを覆えすに足りる証拠は存しない。
従つて、結局被告が推計により原告の所得金額を算定し課税したことは妥当な措置であつて何ら違法はない。
第二、本件係争年度における原告の所得金額について被告のなした推計の正当性について
一、被告は原告の所得金額の推計にあたつて二つの方法を採用しているが、そのいずれもが、原告の営業規模等に類似するというパチンコ遊技場経営の法人七社について各係争年度の平均営業利益率を求め(別表二)、これを原告の各係争年度の推定売上金額に乗じ(第一の方法)、あるいは平均営業利益率から平均総費用率を求め、これでもつて各係争年度の推定総費用額を除して(第二の方法)、それぞれ各係争年度の営業利益金額を推計している。
そこで、被告が原告にあてはめた右二つの方法に共通する平均営業利益率の合理性について検討する。
被告は、原告の営業利益率の推定にあたつて原告の営業規模等と類似するパチンコ遊技場の法人七社(別表二のAないしG)を選定し、その平均営業利益率を算定しているのであるが、その選定の基準として考慮した事情は(1)商店街通行人の量、電停バス停等の交通機関への距離、客層等名古屋市内の立地条件が原告と類似した法人、(2)パチンコ機械台数および店舗設備等営業規模において原告と類似した法人、(3)原告会社取締役の夫住田一義が自ら原告と規模等において近似する旨申立てた法人、(4)同業者精通意見によつた法人等の諸点でありかつ原告店舗周辺に大規模と称する同業者の存すること等をも勘案のうえ比較法人を選んだというのである。ところで<証拠>によれば、別表二に記載の各係争年度の右AないしG法人のそれぞれのパチンコ機械台数、売上金額、営業利益額については、一応これを認めることができ、これを覆えすに足りる証拠はない。右によつて得られた各争係年度の右法人七社の各売上金額と各営業利益額とをそれぞれ合計し、営業利益額の合計を売上額の合計で除すれば被告主張の如くその平均営業利益率は係争第一年度については6.4パーセント、第二年度については6.5パーセントと算出される。しかしながら法人七社毎にその利益率を算出すると次の表の如くになる(計算方法は売上金額、営業利益額とも上位四桁目を四捨五入し、利益率((パーセント))については小数点二位以下を四捨五入した)。
ところで右の表を一見すれば明らかな如く、被告が原告の営業規模等と近似すると主張する法人七社についても、個別的に考察すれば、係争第一年度においては最高12.0パーセントから最低2.3パーセントまで、係争第二年度においては最高16.1パーセントから最低3.6パーセントまでのばらつきがあり、かつ同一法人においても連続する二年度の各利益率に少なからぬ変動がみられることが看取され、パチンコ遊技業がいわゆる人気商売的性格を帯有していることをあわせ考えると、その平均営業利益率をそのまま原告の営業利益率としてあてはめることにはかなりの疑問が存する。
法人名
係争第一年度
係争第二年度
A
12.0パーセント
16.1パーセント
B
5.9パーセント
6.2パーセント
C
6.1パーセント
4.6パーセント
D
2.3パーセント
5.2パーセント
E
6.9パーセント
5.7パーセント
F
4.9パーセント
3.6パーセント
G
9.6パーセント
8.1パーセント
二、ところで他方原告の本件係争年度の営業状態について別個の視点より検討してみると、<証拠>によれば、同証人は名古屋市において、住田一義がパチンコ遊技場を経営する以前から自らもパチンコ遊技場を経営し、名古屋市中遊技場防犯組合の組合長の地位にあつた者であるが、その経験により、当時原告の経営状態では経営が困難であることを察知し、原告の実質上の経営者である住田一義に対し廃業をすすめたりしていることが認められ、また当時原告の経理事務を担当していた証人渡辺美代子の証言によつても原告の付近には原告より規模の大きなパチンコ店が三店あり、そちらの方に客足がとられるため原告の経営は苦しかつたことが認められる。さらに、原告の所在地において原告と同一の店舗により営業していた丸星パチンコ店の店員をしていた証人寺野福一の証言によれば、右丸星は周辺に大きな店ができたため昭和三二、三年頃廃業し、その後原告が開店するまで二年間程店舗は閉められていたこと、またその頃同じ理由で付近にあるパチンコ機械台数が六〇台前後の小さな店が、三軒位つぶれたこと等が認められることよりしても、原告の経営が困難であつたことが間接的に推認されるのである。もつとも、<証拠>には右丸星パチンコ店の経営者であつた浅井定一の妻である浅井フクエが名古屋国税局直税部の係官に対し同店が廃業停止に至つたのはパチンコ店の経営が苦しかつたためではなく、住田一義に対する高利の借金の返済(毎日五、〇〇〇円宛)に追われたためである旨述べている部分があるが、同人は、当裁判所において証人として証言した際、夫の定一が住田一義に支払つた金員の名目は知らなかつた旨証言し、他方<証拠>によれば昭和二七年四月頃から定一は住田一義にパチンコ店舗の賃借料として一日につき三、五〇〇円を支払わなければならなかつたのであり、右一日につき三、五〇〇円の賃料が、当時において一日につき五、〇〇〇円に増額されていたものとも考えられ(本件パチンコ店舗の賃料として一日につき五、〇〇〇円の額は、その所在地からすれば、決して高額にすぎるものとは断定できない)、従つて、にわかに当時浅井定一が借金の返済のために毎日五、〇〇〇円ずつ支払つていたものとは認めることができず、またもし定一が賃料として毎日五、〇〇〇円を住田一義に支払つていたとすれば、店舗の賃料は当然営業経費に組み込まれるべきであるから、このことの故に廃業したとすれば、すなわち同所におけるパチンコ遊技場経営が困難であつたということにほかならない。また以上よりすれば、本件係争年度当時原告の景品買いをしていた証人田中豊子の証言中、以上認定に反する部分は採ることができず、他にこれを覆えすに足りる証拠はない。
三、以上検討したところを総合すれば、被告が原告の各係争年度の営業利益金額を推計した方法に対する疑問は、原告の経営が困難であつたと推認される諸事情によつて増大し、原告指摘の処分の違法性に対する被告の主張中三、2の営業利益率算出のための基礎事実が仮に真実だとしても所詮これを基礎として算出される営業利益率はこれまた単に平均的な数値にすぎないのであつて右に詳述した疑問を解くに至らず、結局被告主張のその余の点について判断するまでもなく、被告のなした本件推計課税の処分は、その合理的な範囲を逸脱し違法であると断定すべく取消しを免れない。
よつて、原告の本件各係争年度につきなした被告の本件処分は違法というべく、原告の請求には理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(越川純吉 丸尾武良 杉本順市)